昨年の10月24日に突如としてメルヴェユールデッキとコンボ封印駒(ユスヘルミ、ナルクレプス)の同デッキ制限が適用され、その後「作業ミス」だったとして訂正されたものの、界隈では「事前お漏らしか?」と騒然となったという一件がありました。
その後、数日経って環境調整に関するYouTubeLIVE配信内で発表があったように、結局のところはユスヘルミとナルクレプスへのスキルバッジ適用という形に収束しました(経緯は以下の記事に記しています)。
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「作業ミス」が露呈した当初、X(Twitter)上ではメルヴェユールのコンボ封印に対するテコ入れが想起されたことで様々な反応がありました。中でも「その調整、本当に必要?」「魔デッキ以外からも飛んでくるグノーの方がキツイ」等々の意見が散見され、メルヴェユールのコンボ封印に対する調整の意義や正当性について熱い議論が繰り広げられたのも記憶に新しいところ。
そこで本記事では、メルヴェユールの1年半に渡る勝率データを参照しながら、果たしてコンボ封印に対する調整は必要だったのかどうかについて考えていきます。
メルヴェユールデッキとは
メルヴェユールデッキは、(当然ながら)闘化メルヴェユールをリーダーとするデッキです。
リーダーのメルヴェユールがアビススキルを持つ「腐瘴の骨」を召喚し、それをコンボして増殖させながら2ターンの継続毒と吸収でアドを取りつつ色々な駒で殴っていくデッキ、という表現が端的にこのデッキを表したものだと思います。
メルヴェユールデッキの「個性」
召喚系スキルを持つメルヴェユールでは盤面の魔駒が増えるので、魔駒数を参照したりスキルに魔駒数の条件がある駒と相性が良く、それがデッキの個性の一つとなっています。例えばリリアスやガオジァンなどがそうであり、またユスヘルミやナルクレプスのコンボ封印駒もまた然りです。
増加する骨の吸収の積み重ねで耐久性を確保しながら、リリアスやガオジァン、ハルマル(途中からこの枠はカジミールになった)などで殴ってくるメルヴェユールデッキ。それに対抗して相手もコンボを組み攻撃の体制を整えますが、そこで飛んで来るのはユスヘルミ。
コンボ封印で相手の反撃の芽を確実に摘みながら、攻撃のため前のめりに体制を崩したところを押し切っていく…というのが典型的なメルヴェユールの戦い方というイメージがあります。
ずっと人気が高いデッキ
これは2024年8月のとあるタイミングの使用率TOP 5。
9月の環境調整でアマテルデッキに手が入る前の、S5・S6アマテル全盛期のシーズンマッチですが、メルヴェユールは使用率2位につけています。
また、こちらは9月終盤のある日。Deck Driveでアルベルティーネが登場し、「どうやらかなり強そうだぞ」という評判が広まっていた頃だと思いますが、そんなタイミングにもしっかりと使用率上位を占めています(W遠夜の雷撃メタが流行っていた可能性もありますが)。
このように、メルヴェユールデッキはどのような時期・タイミングにも安定して使用率上位にいる印象のある、屈指の人気デッキの1つだと言っても過言ではありません。
メルヴェユールデッキの勝率の遷移
では、そんなメルヴェユールデッキはこれまでどのような成績を残してきたのかを、シーズンレポートとして公開されてきた平均勝率データの観点から見ていきたいと思います。
使用したのは2023年7月から2024年12月までのシーズンレポート、すなわちシーズンマッチのダイヤモンドマスター帯、無補正における勝率のデータです。メルヴェユールデッキの全体勝率がどのように遷移してきたかを、グラフ上にプロットしてみました。
加えて、上記の約1年半の期間にずっとシーズンレポートに入り続けた神殴りデッキと混合殴りデッキ、そして同じく魔単デッキの雄として名前の挙がるアナンデッキも、参考までに同じグラフ上に図示しています。
なんと18ヶ月間でたった3回しか勝率50%に達していない
S5アマテル全盛期もダメマスカマリ大流行期も、そして現在に至るアルベルティーネ環境においても、どんなときでも使用率上位にいた印象のメルヴェユールデッキですが、総合勝率が50%を上回ったのは18ヶ月の期間中になんとたった3月しかありません!
そのうちの2回は闘化フェルグが追加された直後の2024年2月と3月で、次は闘化カジミールが追加された直後の2024年9月です。超強力な魔単デッキ強化が入った直後のみ勝率はかろうじて50%台になんとか乗りますが、それ以外は常に47%~49%あたりをウロウロとしていたのです。
一方の神殴りデッキと混合殴りデッキは、いずれのデッキも上記の期間中に1度も50%を下回ることはなく安定して高い勝率をキープし、場合によっては56%台に達することもありました。
最近は恐らくアルベルティーネの速度やシトリ・アマテルによるシールドなどの影響を受けてやや勝率を下げてきてはいるものの、依然として50%を死守できています。
興味深いのは同じ魔単デッキであるアナンとの比較です。
アナンも当初はメルヴェユールと同じように47%~49%周辺を推移していましたが、恐らくカジミール追加を受けて、さらに大・アルベル環境到来に対して遠夜で対抗できたという追い風を受けて、2024年9月以降から急速に総合勝率を上げてきています。
対するメルヴェユールは、同じ魔単デッキでありながらアナンのように勝率を上げることはできず、そこに追い打ちを掛けるかのように11月からのコンボ封印のスキルバッジ適用(デッキに対する事実上のナーフ)で47%台にまで勝率を落としていることは注目に値します。
どちらも等しく環境メタ駒である遠夜を編成可能な魔単デッキであるにもかかわらず、ここまで勝率に差が生じている明確な理由は判然としないですが、一つの仮説として両者を分けたポイントはリーダー性能にあると考えています。
ジワジワ系のメルヴェに対し瞬足のアナン
メルヴェユールのデッキ自体はリリアスやハルマル(カジミール)でガシガシ殴る武闘派なイメージがありますが、メルヴェユールのリーダー自体の性能としては、召喚する骨のアビスでスリップダメージを稼ぎながら、アドバンテージでジワジワと相手を追い詰めていくタイプのものです。
対するアナンは大抵2ターンとか3ターン目にはオーダーAとBが発動し、その時点で瞬間的に3,000のアドバンテージを獲得します。その後、フィニッシュと同じぐらいのタイミングでオーダーCやDが同時発動して火力を後押しします。オーダー達成で瞬時にアドを取れる性質上、比較的瞬発力があるデッキだといえます。
アルベルティーネのような火力化け物のデッキと対峙するとき、スピードは重要な要素になります。遠夜のようなメタ駒を設置できても、こちらの火力が立ち上がらないとアルベルティーネを追い込めず、逆にそのまま押し切られてしまいます。同じ魔単デッキなのにアルベルティーネ環境下で勝率に大きな差が開いたのは、リーダーの性質の違いによる部分が無視できないのでは?と思いました。
あとはアナンのオーダーDも効いていそうです。リーダー火力が有限ターンのアルベルティーネデッキにとって、最後の一押しの段階で1,600回復(3,200アド)を拡げられるのは結構キツイのではないかと想像できます。
このように、メルヴェユールとアナンでは、同じ魔単デッキでありながらその勝率に開きが生じているのです。そして、メルヴェユールはリーダー性能としての瞬間風速でアナンに敵わない一方、アビス駒の召喚を増やしていく動きには実は準耐久デッキ的な側面もあり、コンボ封印で1ターン延命できることはデッキ特性にもマッチしていたことだったと考えられます。
2024年11月からユスヘルミとナルクレプスにスキルバッジ適用
さて、このようにメルヴェユールの苦境が続く中で、上でも記したように2024年11月からユスヘルミとナルクレプスにスキルバッジが適用されました。バッジの内容は、「盤面に自分の魔駒が3枚以上」だった発動条件を「魔駒が6枚以上」へと引き上げるもの。
バッジ適用を説明する中で、その背景にある理由として「これらの駒は図鑑ナンバーが3桁台(ナルクレプス:No. 266, ユスヘルミ:No. 732)と、初期中の初期に実装されたものであり、メルヴェユールやシアンなどの召喚系魔デッキが想定されていなかったため」と説明されました。しかし、これはあまり正確な説明ではないと思っています。
魔駒の召喚スキル持ちとしてはNo. 800のモルフスやNo. 875の闘化ヨシノで既に登場しており、また当時からこのような召喚デッキにナルクレプスを編成するアイデアはありました(ユスヘルミはコンボが使いにくいよね、という評価だった記憶)。
そこから8年間放置されてきたのに、ここに来て突然「召喚デッキが想定されていなかったので」という説明は筋が通りません。より合理的だと感じる説明としては、当時よりもコンボスキルの価値(火力や効果など)が高くなっており、コンボ封印が勝敗により直結しやすくなっているから、という方が正確だと思います。
恐らく想像するに、けいじぇい氏が述べたスキルバッジ適用の理由は後付けに過ぎず、実際には「ユーザの声が多く寄せられたから」なのだと思います。
メルヴェユールに対する調整は必要だったのか
今回、メルヴェユールの総合勝率データを改めて見てみたところ、デッキ自体の高い人気とは裏腹に、手元にデータのある18ヶ月の間でたった3回しか勝率50%を上回っていないという苦しい実態が浮かび上がってきました。闘化フェルグや闘化カジミールなど、超強力な魔単S駒の追加を受けてもなお勝率は50%を下回る状況だったことがその苦境を物語っています。
その勝率データを踏まえた上で考えると、メルヴェユール(だけでなくシアンなどもそうですが)に対するユスヘルミ、ナルクレプスのナーフ(スキルバッジ)適用は果たして必要だったのか、少々疑問に感じてしまうというのが正直なところです。
あくまで個人的な意見にはなりますが、環境調整はデータに基づいて行われるべきだと考えているところがありまして、もしこの調整が(データを顧みずに)ユーザのプレイ体感に対する意見のみで決められたとするならば、それは対戦環境的には健全ではないと考えます。
そもそもの魔デッキの当初のコンセプトとして、「低HPで耐久性脆弱ながらも、妨害・撹乱系スキルで相手のプランを粉砕しながら勝利を目指す」だったはずで、プレイ体感は良くないのが当たり前というか。それを「体感悪い」だけで制限してしまうのは、魔デッキのアイデンティティを否定することになりかねず、ひいてはバランスの取れた健全な対戦環境にもプラスにはなりません。
「メルヴェユールは2021年6月実装の古い駒だから、そもそも引退の時期なのでは?」という指摘はあるかと思いますが、2020年5月実装のテュポーンも、同9月のミューズも、2021年4月のキンマモンも未だに第一線級ですよね。登場日のみを理由に、勝率を顧みず弱体化しても良いというのもちょっと違う気がします。「あくまで調整は使用率と勝率基準で行います」とアナウンスしているのだから、この件もきちんとデータの観点で説明がなされるべきだったよね、というのがこの記事における主な主張です。
あと、グローリーなどいくつかのコンテンツでメルヴェユールは使用禁止にされていますが、あれだけの性能を持ったアナンがグローリーで暴れていたことを併せて考えると、「そろそろ解除してあげてもよいのでは?」といつも感じています。どう考えても、オーラで7,800アドを取るアナンよりも、盤面に出すメルヴェユールの方が性能で上回っているなんてことはないと思いますので。
まとめ
以上、ユスヘルミとナルクレプスに対して行われたスキルバッジ適用について、昨年11月時点で思っていたことを改めてきちんと記事にしてみました。
運営さんは最近、環境調整をこまめにやってくれていて、その調整も的確なものが多いと感じています。その一方で、特定の属性や特定のデッキに対する贔屓/シビアな態度を感じる場面もしばしばあるので、なるべく多くのデッキタイプが等しく強化を受けられることで、対戦環境がより多様性に溢れた豊かなものになり、さらなるゲームとしての奥深さに繋がっていけばより良いなと感じています。